「市民と法」の10月号116頁(2009)において、須藤雅巳先生の論文「株式交換における株主資本の計算」が掲載されています。まことにはずかしながら、考えたことのない論点であり、勉強させていただきました。
主な論旨及び問題意識としては、「たまたま対価として完全親会社株式以外の財産が交付された場合(一部筆者省略)には、その他資本剰余金に配分(増加)できるが、それ以外の場合にはできないことになり、公平性を欠くのではないか」ということです。そして、その論調の帰結として、債権者保護手続が不要な株式交換であっても、任意に(799条のフレームワークを用いて)債権者保護手続を経れば、資本金、資本準備金のみならず、その他資本剰余金を増加することができるのではないかと提案するものです(ただし、現在の実務上では民事局見解との兼ね合いから同条を用いたその他資本剰余金を増加させることは不可であると講じられておりますことに注意が必要)。
実務上において、任意に債権者保護手続を経ることによって、株主への配当財源に振り替え(その他資本剰余金を増加させる)、新しく完全親会社の株主となった方への配当に備える要望が多いのではないかと思われます。
私の個人的な考えとしては、799条の任意履行は必要性の観点からは不可、許容性の観点からは、条文改正を望むといったところです。
では、なぜその帰結に至ったのかを述べたいと思います。
まず、前提としての理解を整理します。株式交換における株式交換完全親会社では、①株式を対価として交付する場合で、かつ、②株式交換完全子会社より新株予約権付社債の承継がない場合には、債権者保護手続が不要である旨が規定されています。①又は②のどちらかを満たさないのであれば、債権者保護手続をする義務が生じます。株式交換は条文の位置から明らかなように組織再編の枠内ですが、その他の組織再編手続に比較して、債権者保護手続が不要な場合が多いのではないかと思います。
では、債権者保護手続履行の局面から検討すると、
ⅰ)上記①又は②を満たす場合であっても、「799条」の規定の債権者保護手続を任意に履行することができるのか。(なぜ任意に履行する方策を考えるのかといいますと、計規39条第2項本文を適用して、株主資本変動額を「その他資本剰余金」に振替えたいからです)。
ⅱ)または、799条の債権者保護手続は、上記の①かつ②以外の場合にのみしか行うことが認められず、債権者保護手続が必ず適用することができないこととなり、これを受けて、計規39条第2項但書きにより、その他資本剰余金を計上することができないのか。すなわち、799条の任意履行ができず、その他資本剰余金を計上しようとすると、799条ではない別途スキームを用いることになるのか
といった疑問が生じてきます。
※799条の規定に該当しない別途スキーム(債権者保護手続)としては、株式交換後に、完全親会社の資本金を減少してその他資本剰余金に振り替える447条であるか、または準備金の額を減少してその他資本剰余金に振り替える448条が想定できるでしょう(蛇足ですが、当該手続を効力発生日を株式交換の日にすることも可能です)。
須藤先生の論拠に一貫しているのは、条文間の公平性ということがいえると思います。確かに組織再編の債権者保護手続という枠組みの観点からの「公平性」というキーワードを貫くと、上記①②の場合であっても、債権者保護手続の任意履行が可能であり、その他資本剰余金への振替ができるという結論が、親和的なような気がします。しかし、あくまでも組織再編の枠内での結論であり、代替可能なプロセスがあるにもかかわらず、、「799条」の債権者保護手続を適用するのであれば、その「必要性」につき、別途検討を要する問題ではないかと思います。
まず、株式交換における799条の債権者保護手続は、あくまでも完全親会社から現実に財産が流出する場合(上記①の反対規定)や、完全親会社の債務が増加する場合(上記②の反対規定)が個別具体的に規定されています。また、同条の合併・分割では必ず資産・負債が流出入するため、すべての債権者を対象として、債権者保護手続をすることが義務付けられています。
すなわち、資産負債が流出入するか否かの観点から債権者保護手続の必要不要が定められていることがわかります。このように、組織再編では債権者保護手続のフレームワークが資産・負債の観点から規定されており、資産・負債の移動が伴わない場合には当該規定の趣旨の枠外なのではないかと思われるのです。
したがって、趣旨の枠外であれば、当該フレームワークの仮借の余地はないのではないかと考えられます。
このように、資産・負債の移動を伴わない組織再編の場合には、組織再編における債権者保護手続と距離を置くのが妥当なのではないかと思います。そして、組織再編と距離を置いた代わりに、一般原則としての、会社法第5章の計算等の規定の適用を検討するのではないかと考えます(447条又は448条の規定を適用し、株式交換とは別途手続を履行して、その他資本剰余金を増加させることになる)。
また、条文解釈からすると、旧商法においては、常に株式交換による払込資本分は、資本金・資本準備金とする必要がありました(旧商288条1項2号)。この見解の変更が、債権者保護手続を要しない場合にもその射程が及ぶことが直接表示されていないとするならば、すなわち、解釈の変更はないということがいえるのではないかと思います。
一方で、会社法の法制審議会のメンバーであられた江頭憲治郎『株式会社法』(第1版)においては、「会社法は、株式交換の際に完全親会社が債権者の異議手続を行うことを条件として、同社が剰余金の配当財源となるその他資本剰余金を増加することも可能とすることにより」と記載されています(832頁)。この趣旨が799条における枠組みで具体化することを趣旨としているのかは不明確です。すなわち、株式交換において、その他資本剰余金を増加する場合には、447条・448条の規定対応で足りるのはないかということもいえるのではないかということです。
以上のように、799条の任意適用の必要性が薄いと考えられるため、447条等の規定における対応にならざるを得ないのではないかと考えてしまいます。(本論分でご指摘のある799条の条文の文言解釈については触れませんでしたが)
一方、許容性についてですが、現在の799条(及び関連計算規則)が改正され、447条等を用いたスキームでのその他資本剰余金の増加ではなく、任意履行を可能にする新799条での増加を「創設」することは問題はないと思いますので、将来的な改正については異議はありません。
株式交換はよくわかりません。では、また。

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